家は借りて住め 本は買って読め(1)
その能力を容易に肌で感じられるものもあれば、そうでないものもある。
例えば、短距離走なんかはすごくわかりやすい。誰が見ても明白に記録という形でその人の能力を測ることができる。
努力が必要なこともわかりやすい。医者や弁護士は、頭の中に様々な判例だとか条文だとか医療の知識が詰まっている。ただ、これに関しては「想像が出来てしまう」という点ではイマイチそのスゴさは伝わらないと思う。極端な話、六法全書の丸暗記は無理だけど条文を一つ覚えるだけなら誰でもできるからだ。
凡人が畏敬の念を一番抱くのは「想像ができるけど絶対に不可能だと思う」ことをやれる人だと思う。
弁護士の能力なんかは、判例・条文の積み重ねだから少なくとも絶対に不可能だとは思わない。陸上選手の極限の世界はそもそも理解できない。そんなに速く走るということに現実感が沸かないからだ。
コピーライターという仕事がある。要はキャッチコピーを作る仕事で、糸井重里なんかがその代名詞的存在だと思う。
僕の中で「想像ができるけど絶対に不可能だと思う」ことの代表格がキャッチコピーを作る仕事だと思ってる。
ジブリの映画「紅の豚」のキャッチコピーは「格好良いとはこういうことだ」。僕がこのキャッチコピーを知ったのは紅の豚を見た後だったけど、まるでジグソーパズルにピースがびたっとはまるようにしっくりときたことを今でも覚えている。
キャッチコピー自体は短いし平素な言葉を使っているしとても簡単だ。自分でも作れるんじゃないかなんて思える。でも、実際に作ることはほとんど不可能だと思う。仮に「格好良いとはこういうことだ」より素晴らしいキャッチコピーを紅の豚につけてくれと僕に言われても、おそらく何年何十年努力しても無理だと思う。
ただ、完成された短い言葉には同時に欠点もあると思う。その単純さゆえの魔力みたいなものだ。
それについてはまた次回。