ムシキング

物事に心からのめりこめるのは子供の特権だと思う。もちろん、周りが見えなくなるまで一つのことに集中できる大人はたくさんいるし、僕も物事によっては夢中になれることはまだまだたくさんあるのだけれど、あの圧倒的な「熱」みたいなものはやはり子供特有のものだと思う。

そんな爆発的なエネルギーを現在一手に引き受けているのが「ムシキング」というゲーム。ちょっと前はポケモン遊戯王がその地位にいたようだけれど、現在はこちらに移行しているようだ。

このゲームはゲームセンターに置いてあるゲームらしい。100円を入れるとカブトムシかクワガタのカードが出てきて、カードをスキャンすることでゲームがスタート。(必ずしも今出てきたカードをスキャンする必要はない)。コンピューターと戦うこともできるし、人と対戦することもできる。
このゲームのキモは、やはりカードによって強さが違うこと。これは当たり前のことなんだけど、キラキラ光るヘラクレスオオクワガタなんかが手に入ればやっぱり嬉しい。さらにそれを使えばコンピューターと対戦してもめったに負けないし、友達と対戦するときにも強力な能力を発揮する。

僕の時代、最もアツかった遊びはバーコードバトラーだ。大抵の商品についているバーコードを切り取って機械に読み込ませるだけで戦士に早変わり。その戦士を使って友人と対戦することができる。家中のバーコードを切り取って母親に怒られたなんて経験をしたのは僕だけではないと思う。
基本的にはムシキングも全く同じ手法だ。そのへん、やはり子供というものはいつの時代も変わらない。おもちゃ会社の人もちゃんと過去の成功例を勉強している。しかも、お金を継続的に徴収できるこのシステムはさうが現代だけあって昔より洗練されてると思う。バーコードバトラーは機械を買わせて終わりだけど、カードは次から次へと新しい版を出せば売れていくし、古い版のカードは使えなくなるとかいうルールを作れば無尽蔵に儲けることができる。(その際にはきっと「持ってるカードの差がつきすぎてしまうと面白くなくなるから一度リセットしましょう」なんてもっともらしい理由をキャラクターに言わせるんだろうなあ。)

僕の時代からカードは流行っていた。僕の時代はドラゴンボールのカードダスという商品だ。僕より少し上の世代はSDガンダムだったらしい。
カードダスとバーコードバトラーが同時に流行っていたから、カードダスの裏面にバーコードを貼って機械に通すというのが当時最もクールだった。バーコード自体はタダだったから厚紙にでも貼ればよかったんだけど、クールになるためにはカードダスを購入する必要があった。調べてないからわからないけど、バーコードバトラーエポック社、カードダスはバンダイだった気がするから、バンダイはひょんなことから大儲けしたに違いない。まさに風が吹けば桶屋が儲かるってなもんだ。

そのカードダス。一枚20円で、初期の段階では一枚づつしか買えなかったのだけど、僕が高学年に上がる頃には100円で5枚束になったものが買えるようになった。これがいけなかった。一枚ずつなら買うのも時間がかかるから、必然的に冷静になる時間ができる。それに対して100円ずつ買えるようになるとお金が飛ぶのも一瞬だ。

さて、当時の僕も現在の小学生と全く同じように、キラキラ光るプリズムカードが欲しくてたまらなかった。スーパーサイヤ人に覚醒した時の孫悟空だとか神様と融合した時のピッコロなんかがプリズムカードになっていた。強いバーコードをスーパーサイヤ人孫悟空のカードダスに貼りたい。そして、「クリリンのことかーっ!!」とかいいながら、バーコードバトラーで友人を相手に戦いたい。そんな妄想で頭はいっぱいだった。

100円ずつだと、20円ずつより明らかにカードの流れが読めるようになる。少なくともそんな気がしてくる。前の人が200円使って、次の人も200円使ってプリズムカードが出なかった。それならば確率的には次に僕が買えばプリズムカードが入っているはず!
小学校の近くの小さなおもちゃ屋さんの前に設置してあるカードダス販売機に100円入れる。出ない。また100円いれる。出ない!!気が付くと500円も使っていた。当時の僕のおこずかいが1000円の時代にだ。月の所得の半分もつぎ込んだ僕の手の中に残ったのは25枚のクズカード。

何てことはない。ギャンブルと全く構造は一緒なのだ。ルーレットで「さっきは黒が来た。その次もそのまた次も黒だった。確率的に黒ばかり来るはずはない、次こそは赤が来るはずだ!」。そしてまた黒が来る。大金を失うが、次こそはきっと赤が!!(略

僕はカードダスのこの経験がすごくトラウマとして残っている。一時期ギャンブルに手を出しかけた経験があったのだけど、結局はまることはなかった。多分この経験が生きているのだ。もし、小学生時代のあの日、最後の500円めでプリズムカードを引き当てていたら。今の僕はもしかしたらギャンブルにどっぷり漬かるような人間になっていたかもしれない。悟空のプリズムカードを引き当てることはできなかったけれど、もっと大切なものを引き当てたのかもしれないと今では思う。

きっとムシキングを楽しむ今の小学生も同じような経験をする子が多くいるだろう。親はおこづかいの使い道については一切口出しをするべきじゃないと思う。子供は勝手におこづかいで金銭感覚を身に着けていくのだから。子供のおこづかい程度のお金を巻き上げられるだけで、正しいお金の使い方を身に着けることができるようになるなら授業料としては安いものだろう。

そんなことを、初めて選挙の投票をしに小学校へ行く時に、10年ぶりくらいに通った道で10年前と全く変わらずに営業を続けていた小さなおもちゃ屋さんを見かけて思い出した。当時からいつ潰れてもおかしくないと思っていた小さくて小汚い感じの「あこぎな」おもちゃ屋さん。これからもずっとずっとお店を続けていって欲しいものだ。